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聴神経鞘腫(前庭神経鞘腫)について

聴神経腫瘍とはどん腫瘍なのか?

 後頭部にある小脳、脳幹、脳神経に囲まれたスペースを小脳橋角部といい、この部位に発生した腫瘍を小脳橋角部腫瘍といいます。このなかには、聴神経腫瘍、髄膜腫、神経膠腫、類皮腫、類上皮腫などさまざまな種類がありますが、大部分は良性脳腫瘍です。このうちの聴神経腫瘍と呼ばれるものは、おおくは前庭神経を覆っているさやの部分が腫瘍化したもので、正式には前庭神経鞘腫と言います。症状は耳鳴りや難聴、めまい、歩行障害など内耳神経障害や小脳症状のほかに、大きくなると顔のしびれ、物が二重に見える、食べ物や水分が飲み込みにくい、声がかすれるなどの症状を出します。また、この腫瘍は特徴的な粘液を分泌し、脳に水がたまる水頭症を生じることがあり、頭痛・意識障害・視力障害などが起こることもあります。小さな状態で見つかった場合は、無症状であればほとんどが経過観察になります。また、やや大きめの腫瘍に対しては、ガンマーナイフなどの放射線治療が適応となります。 

 最近治療した典型的な聴神経腫瘍で、内耳道から脳幹に伸展しています。

術前MRI
術後MRI

 この患者さんは、顔面神経に腫瘍がかなり強くこびりついており、手術後に顔面神経麻痺を生じましたが、半年で元通りに回復しました。

開頭による聴神経腫瘍摘出術の合併症の可能性について

 開頭手術の合併症の中で最も生じる可能性の高いものは顔面神経麻痺とめまいです。腫瘍摘出に際して顔面神経(顔の筋肉を動かす神経)と前庭神経(からだのバランスをとる神経)の損傷をきたす可能性が高いためです。聴神経は聴覚に関係する蝸牛神経と平衡覚に関係する前庭神経からできています。顕微鏡を使用した手術の進歩により、腫瘍を摘出し、かつ顔面神経を温存できる確率が高くなっていますが、形として神経を温存しても顔面神経麻痺が生ずることはあります。その確率は腫瘍の大きさ、手術中の顔面神経への手術侵襲の程度に関係しますが、一過性の場合でも顔面神経の機能回復まで数カ月から1年を要しますし、結局十分回復せず顔面麻痺が永続する場合もわずかにあります。麻痺がある間、閉眼できず角膜潰瘍を生じ失明する危険性がもっとも問題となり眼科的な治療が必要な場合があります。聴神経のうち蝸牛神経障害により聴力障害が出現し進行する可能性は高く、仮に手術前に聴力が残っていても手術後聴力が消失してしまう可能性が小さくありません。一方、前庭神経の障害で様々な程度のめまい、平衡障害が出現する可能性があります。

手術後の経過について

 腫瘍は脳深部に存在し、周囲に重要な正常組織が存在するため手術時間は長くなることが予想され、少なくとも4時間から場合によっては10時間以上かかる場合もあります。手術当日はICU(集中治療室)に入室し術後管理を行います。手術合併症がない場合の例ですが、手術翌日までに問題なければ原則として一般病棟に戻ります。食事は手術翌日から、歩行は早ければ手術翌日、洗髪は3日目から、術後約1週間で抜糸、退院は早ければ抜糸後、遅くとも術後2週までには可能となります。実際は患者さんごとに種々の違いがあり、めまい、ふらつきが強い方の場合は、1週刊程度のリハビリテーションが追加になります。

開頭による腫瘍摘出術の後、再手術あるいは他の治療を必要とする場合について

 1回の開頭手術で完全な腫瘍摘出をめざしますが、術中腫瘍を完全に摘出したと思っても、術後の検査で腫瘍が完全に摘出されていないことがあります。また、無理に腫瘍を摘出して重要な動脈、顔面神経、脳幹などの脳神経組織が損傷され、後遺症がでる可能性が高いと判断したときは、腫瘍の一部を残して手術を終了する場合があります。こうした場合、術後のMRIなどの検査をふまえ対処法を検討します。水頭症が併存するときは脳室腹腔シャント術が必要になる場合があります。

手術以外の治療法について

 ガンマーナイフは放射線治療です。従来の放射線治療と違い、コンピューターで計算し腫瘍部分にさまざまな方向から腫瘍に集中的に放射線が当たるよう工夫されたものです。現在では健康保険も適応されています。治療は通常1日で終了し、通院治療も可能です。十分な量の照射が行われた場合、通常は良好な腫瘍増大抑制効果が得られますが、完全に消失するわけではありません。腫瘍が壊死する経過中、一時的にサイズが増大したのち縮小することがあります。一方、正常の脳にもある程度の放射線がかかり、その量は主に腫瘍の大きさに関係します。こうした放射線被曝の面より通常ガンマーナイフ治療の対象となるのは腫瘍の大きさが約4~5cm以下の場合です。それでも治療後数ヶ月から数年を経て、放射線の副作用(顔面神経障害による顔の運動障害、過牛神経障害による聴力の低下、脳幹、小脳の変性・機能障害による意識障害・歩行障害、新たな脳腫瘍の発生)が起こる場合もあります。従って、ガンマーナイフを行うかどうかは、患者さんが有効性と問題点に関し当院の専門医から直接説明を受けて慎重に決定する必要があります。

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