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頭蓋咽頭腫の治療について

頭蓋咽頭腫(ずがいいんとうしゅ または とうがいいんとうしゅ)とは
お母さんのおなかの中にいるときに、脳とのどの奥を結ぶ頭蓋咽頭管といわれる部分の細胞が、退化せずに一部残ってしまったために発生すると言われています。脳腫瘍には細胞の性格上、良性と言われるものと悪性と言われるものがおおむね半々を占めています。頭蓋咽頭腫は良性に分類されますが、その性格は悪性と言っても過言ではありません。どちらかというと珍しい腫瘍ですが、脳腫瘍の約3%を占め小児から成人まで全年齢層にわたってみられます。しかし約20%は15歳未満の小児に発生し、こどもの脳腫瘍の中では多い方です。ホルモンの中枢である下垂体の上部にある下垂体柄という部分に発生し、頭蓋底の中央にあるトルコ鞍とよばれる凹みの中や、さらに上の方に伸びていくことがしばしばです。腫瘍の中にふくろ(のう胞)を形成することが多く、中にはモーター油に似た液体とコレステロールの結晶を含みます。

頭蓋咽頭腫の症状
腫瘍が大きくなると髄液の流れを悪くし、脳の中の髄液の流れが滞って、水頭症と呼ばれる状態になり、頭痛、嘔吐などの症状がみられることがあります。すぐ近くにある視神経を圧迫すると視野が欠けたり、視力の低下等がみられたりします。また下垂体のホルモン分泌機能が低下するため、身体発育が遅れる、低身長、薄い毛髪、基礎代謝の低下による肥満など下垂体機能の低下症状が見られます。さらに視床下部という部分にも影響が及ぶと低体温、傾眠、うすい尿が大量に出る尿崩症、電解質異常等がみられます。成人では視神経症状と精神症状で発症することが多いと言われています。

頭蓋咽頭腫の診断
頭部CTやMRIを行うと、特徴的な描出のされ方で、おおむね診断がつきます。ただし、頭蓋咽頭腫によく似たラトケのう胞との区別が難しい場合があり、専門家の診断が必要になります。こうした場合は、血液データにおける下垂体ホルモン値の異常や、臨床症状、年齢等から総合的に診断されます。

治療法
基本的には外科手術による摘出を行います。手術は開頭術と経鼻的腫瘍摘出があります。どの方法で手術を行うかは、腫瘍の大きさや広がり具合、また執刀医の慣れ、経験等で決定されます。経鼻法が患者さんに対する負担も小さく、私の場合95%は経鼻法、5%は開頭法で手術を行っています。手術中の観察で、全摘出ができればがんばって全部摘出します。すべて完璧に摘出できれば完全治癒が期待できます。しかし一般的には周囲の重要構造物への癒着や浸潤等がみられることが多く、見た目にはすべて摘出したとしても取りきれていない細胞が残っている可能性も高く、そのような場合には再発する可能性が高くなります。また、周囲重要構造物を損傷しない為に一部腫瘍を残さざるを得ないこともあります。腫瘍の発生する部位、腫瘍の特性(周囲への浸潤、癒着)等のため、他の良性腫瘍と比較すると手術合併症も高いと言わざるを得ません。全摘出できなかった症例には再発防止のための放射線治療が有効といわれています。ガンマナイフやサイバーナイフ、リニアックといった定位放射線治療で多くの有効性が報告されています。病理組織学的には良性であっても再発を繰り返すことが多いため、実際には何度も再発をおこして、悪性腫瘍と同様の経過を占めずことも多くみられます。それゆえ、術後も外来における長期的な経過観察が必要となります。
頭蓋咽頭腫の治療は、私のライフワークです。今までに60例以上の方々の治療に当たらせていただきました。その豊富な経験から得た結論は、手術で無理なく摘出が可能な場合に限り、すべて摘出する。少しでも合併症の危険が残る場合は、決して無理はせず、術後に残った部分にサイバーナイフ治療を行う。この方針により、現在まで大きな合併症は0であり、術後、復学、復職率もほぼ100%を達成しております。この治療方針に関しては、以下の学会で発表を行っております。

※サイバーナイフ治療について(新百合ヶ丘総合病院サイトへ)

学会発表
第24回 日本間脳下垂体腫瘍学会(2014)
頭蓋咽頭腫の転移病変に対しサイバーナイフ治療が著効した1例
第25回 日本間脳下垂体腫瘍学会(2015)
頭蓋咽頭腫に対する寡分割定位放射線治療の検討(シンポジウム)
第74回 日本脳神経外科学会 学術総会(2015)
定位放射線治療を前提とした頭蓋咽頭腫の治療成績について
第20回 日本脳腫瘍の外科学会(2015)
頭蓋咽頭腫に対する外科的治療の変遷とサイバーナイフ併用の効果について~自験42例での検討
第26回 日本間脳下垂体腫瘍学会(2016)
拡大蝶形骨洞法とサイバーナイフによる頭蓋咽頭腫の治療
第25回 日本定位放射線治療学会(2016)
Extended Transsphenoidal Approachとサイバーナイフ併用による頭蓋咽頭腫の治療
第20回 日本脳腫瘍の外科学会(2016)
頭蓋咽頭腫に対する外科的治療の変遷とサイバーナイフ併用の効果について
第28回 日本間脳下垂体腫瘍学会(2019)
手術とサイバーナイフによる治療を行った頭蓋咽頭腫患者の長期予後(シンポジウム)
論文報告
Postoperative Long-term Outcomes of Patient with Craniopharyngioma Based on CyberKnife Treatment
Genichiro Ohhashi, Shinichiro Miyazaki, Hidetoshi Ikeda, Tomokatu Hori
Cureus 12(3): 2020
頭蓋咽頭腫患者の手術とサイバーナイフ治療を併用した、非常に良い成績を論文発表しています。

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