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脳神経外科における定位放射線治療とは

 放射線療法は、放射線発見当時から行われていた治療法で、まだ抗がん剤や手術治療が確立される前には主役を担っていました。現在では手術、化学療法とともに治療の3本柱になっています。その中でも、脳の病気に対する放射線の役割は非常に重要で、良性腫瘍、悪性腫瘍、脳血管の奇形や三叉神経痛などの治療に使われています。以前の治療方法は脳全体に放射線を照射したあとに、腫瘍の部分だけに追加照射したり、対面する二方向から角度を少しずつ変えて腫瘍に照射したりする方法がとられていました。これらの方法は、正常な脳にもある程度の放射線がかかってしまうことで、のちのちの副反応が問題になりました。照射後に脳が縮んで認知症がでたり、脳が壊死したり、脳がはれたりといった症状が数か月おくれて起こることがわかってきました。これらの副反応は、かけてしまった放射線を後から引き算することができないので治療が困難となります。

 現在では、コンピュータ技術の発達により、放射線の照射量や発射する方向を自在に調整することが可能となり、局所放射線治療へと変わってきています。代表的なものが定位放射線治療と言われている、ガンマナイフ、サイバーナイフ、IMRT(トモセラピーなど)です。ガンマナイフとサイバーナイフはともに脳神経外科医が開発した治療機器です。

1.ガンマナイフ(定位手術的照射:1回照射)

コバルトの線源が埋め込まれたヘルメット

 カロリンスカ医科大学脳神経外科故ラース・レクセル教授の発明をもとに開発された治療機器です。ガンマ線というコバルトから出てくるX線に近い放射線を使います。頭部に装着したヘルメット上の192個のコバルトからでるガンマ線を、病変に集めて照射し治療します。誤差は0.15ミリで、病変以外の組織にかかる放射線は非常に弱く、首の付け根(第七頸椎)から上の様々な病変に使用されます。定位治療装置の中ではもっとも歴史が古く、現在日本国内では当院を含め54の病院が導入しています(一般社団法人日本ガンマナイフ学会事務局ホームページより)。治療にかかる費用は約50万円(保険適応でこの1~3割負担になります)で、1泊から2泊の入院です。原則は1回照射のため手術的照射と言われますが、最新の装置では頭を固定するピンなしで、分割照射も可能になっています。分割照射が可能となったため、以前は3センチ以下の病変しか治療ができませんでしたが、大型の病変に対しても使用されることが多くなっています。

2.サイバーナイフ(定位放射線治療:分割照射)

 スタンフォード大学脳神経外科のジョン・アドラー教授によって開発された定位放射線治療装置です。産業用ロボットの先端に小型のX線装置を乗せ、コンピュータで病変をリアルタイムに追いかけて様々な方向から照射を行う仕組みになっています。工場でコンピュータロボットが様々な方向に動き回って、部品を組み立てていく様子を思い浮かべてもらえばわかりやすいと思います。一か所の病変にあらゆる場所から放射線を集中させることが可能で、患者さんが動いた場合でも追尾システムが作動して的確に命中させることができます。大きな病変に対しても分割照射が可能であり、脳だけでなく全身の病変を治療できます。費用は約64万円(保険適応でこの1~3割負担になります)で、一回照射時間が短いため通院で治療可能です。2017年の調査では国内41施設で稼働中です。

3.IMRT(強度変調放射線治療:Intensity Modulated Radiation Therapy)

 高精度・高機能型リニアックなどと呼ばれています。複雑な病巣の形態に応じて、線量集中が可能であり、周囲の正常組織への過剰照射を防ぐことができます。最も普及されている通常の照射装置で治療の計画を立てる場合は、大変複雑な処理が必要になり、IMRTはI’m really tiredの略ではないかという笑い話もありました。そのため、IMRT専用放射線治療装置が開発され、リニアックとCT装置が一体化しているトモセラピーなどが稼働しています。これは治療用の高エネルギーのX線を出しながら寝台が動くので、全身照射や全リンパ組織照射を効率的に行うことが可能となっています。近年、高精度放射線治療として、IMRT等を行う医療施設の数は徐々に増加しています。費用は照射回数が増えれば高くなる方式で、場合によっては100万円以上になりこともありますが、保険適応になっているので1~3割負担、さらに高額医療制度も使えます。

 こうした高精度定位放射線以外にも、特殊な治療法として陽子線治療装置、重粒子線治療装置、ホウ素中性子捕捉療法装置などが国内において稼働しており、恩恵を受ける患者さんの数も増加しています。日本は欧米と比べ放射線治療をうける患者さんがまだまだ少ないのが現状です。体にメスを入れない優しい治療が抵抗なく行われるよう、われわれも情報の提供を進めて参ります。

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